日本映画黄金時代の<にんじんくらぶ>~三大女優~

伊東四朗一座と熱海五郎一座の合同公演 『喜劇 日本映画頂上作戦 銀幕の掟をぶっ飛ばせ~』 を映像で観ている。ゲストが小林幸子さんで、かつての映画界の五社協定を想起させる芝居である。

今回は芝居にも出てくる<五社協定>に対抗して設立した、<にんじんくらぶ>についてである。この<にんじんくらぶ>は、映画好きの先輩から聞き、そんなことがあったのかと驚いたものである。その後詳しいことが判らなかったが、池袋の映画館「新文芸坐」にその資料があり購入した。

「新文芸坐」で2010年(平成22年)に<にんじんくらぶ>を設立した三人の女優の特集を上映したようで、その時 『「にんじんくらぶ」 三大女優の軌跡』(藤井秀男編)の本を作ったのである。

三大女優  岸恵子 ・ 有馬稲子 ・ 久我美子

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日本映画の黄金期、俳優さんはそれぞれの映画会社の専属制で、他社への出演を制限していたのが<五社協定>である。岸恵子さんによると、木下恵介監督の『女の園』で共演した久我美子さんと意気投合し、五社協定への反乱を思いつき、有馬稲子さんを誘い、1954年に独立プロダクション<にんじんくらぶ>を設立したとある。

岸さんは、その設立の前年の名作も紹介している。『にごりえ』(今井正監督)、『東京物語』(小津安二郎監督)、『ひめゆりの塔』(今井正監督)、『雨月物語』(溝口健二監督)、『雁』(豊田四郎監督)、『縮図』(新藤兼人監督)、『地獄門』(衣笠貞之助監督)、『雲ながるる果てに』(家城巳代治監督)、『日本の悲劇』(木下恵介監督)。そして大興行記録を打ち立てた、岸さんと佐田啓二さんの『君の名は 第一部』(大庭秀雄監督)も、この年である。

岸恵子さんと久我美子さんが共演してお互いの考えに共鳴したきっかけの映画作品『女の園』は女子大での学生の学校に対する闘争を描いており、その撮影で共感しあったというのも面白い。この映画に出てくる他の女優陣も凄い。高峰美枝子、高峰秀子、浪花千栄子、毛利菊枝、東山千栄子、望月優子、原泉等である。学校と生徒の思惑の狭間に立ち犠牲になる学生も出て、木下監督の人間関係の複雑さと微妙さを描いている。

<にんじんくらぶ>の第一回制作作品は、有馬稲子主演、久我美子助演の『胸より胸に』(家城巳代治監督)である。『人間の条件』(小林正樹監督)、『もず』(澁谷實監督)、『お吟さま』(田中絹代監督)などがある。あの 映画 『乾いた花』 (篠田正浩監督)も<にんじんくらぶ>の制作である。1965年、『怪談』(小林正樹監督)で、製作費が嵩み興行後返済できず倒産となり、<にんじんくらぶ>も解散となる。

『人間の条件』も大ヒットしながら、松竹の買い取りより、製作費が越え、興行成績がよくても多額の赤字が残ったらしい。『人間の条件』にも『怪談』にも仲代達矢さんが出演されている。その仲代さんの<第二回 仲代達矢映画祭 6月7日~20日>が新文芸坐で開催されて、『永遠の人』・『怪談』の上映あと、仲代さんのトークショーがあった。残念ながら行けなかったが、仲代さんは、この『怪談』が<にんじんくらぶ>解散の一要因であることをご存じであろうか。キネ旬2位、カンヌ映画祭審査員特別賞を受賞しているが、名作と興行収入とは比例しないようである。

<五社協定>も、それに反発した若き三大女優が引き起こした行動により、その後の独立プロの立ち上げとプロセスを模索する壁としての役割を果たしたことになる。<にんじんくらぶ>については、詳細を知りたかったので、これで少しすっきりした気分である。

岸さん、有馬さん、久我さんの三人が共演している映画を年譜から探したら一作品だけあった。1959年の『風花(かざはな)』(木下恵介監督)である。

旧家の息子と貧しい娘(岸)は、許されぬ恋愛のはて、橋から飛び降り心中をする。息子は死に、娘は生きのびる。そして子供を宿しており、行くところのない娘は、旧家の納屋で子供を産み、使用人としての扱いの中で子供を育てる。旧家のお嬢様(久我)が、何かと親子に心を注ぎ、息子(川津祐介)はお嬢様に恋心を抱く。この家を支えている祖母(東山千栄子)は、家のため八歳年下の夫を養子に向かえ周囲から陰口を叩かれ、それを見返すため孫(久我)の嫁入り先にこだわる。ついに祖母の気に入った嫁ぎ先が決まる。お嬢様も友人(有馬)のように東京に出ていき、自分の生活を打ち立てるようなことが出来る人間ではないことを悟っており、その結婚を受け入れる。

蔑まされて息子を育てた母は、お嬢様が結婚したらこの家を出て、息子と新しい生活をすると息子と約束していた。その日、息子はお嬢様への思いを立ちきり、母は今まで通ることの無かったあの橋を渡る。橋の上を花びらのように飛び舞う雪。

「風花は、晴れたお天気の良い日に、どこからか風に乘って舞ってくるこんな雪のことなんだよ。」

ただこの映画は<にんじんくらぶ>制作ではない。松竹である。岸さんの役の女性がどうしてもっと早くこの家を出ないのかと思ったのだが、今気が付いた。彼女は、自分の行動で、お嬢様の縁談に支障をきたしたくなかったのである。彼女は、姪と思っていたのである。他の家族の扱いがどうであれ、叔母としての心の中での彼女の立場を貫いたのである。

監督・脚本・木下恵介/撮影・楠田浩之/音楽・木下忠司/出演・岸恵子、有馬稲子、久我美子、川津祐介、笠智衆、東山千栄子、和泉雅子(久我さんの子供時代)