歌舞伎座 四代目中村鴈治郎襲名披露(1)

中村翫雀さんが四代目中村鴈治郎さんとなられた。二代目鴈治郎さんは、沢山の映画に出られていて、今でも観ることができる。鴈治郎さんならではの役作りをされるので、鴈治郎さんが出られていると知ると映像でもその出から注目してしまう。 四代目鴈治郎さんは、屋号も「成駒屋」から「成駒家」に変えられた。夜の部の襲名披露口上は、今まで観た事の無い流れである。

成駒家歌舞伎賑(なりこまやかぶきのにぎわい』という演題で、木挽町(こびきちょう)の芝居町に、道頓堀の座元・仁左衛門さんに案内されて鴈治郎さんが現れる。道頓堀の座元が、役者・鴈治郎さんを木挽町の座元・菊五郎さん、太夫元・吉右衛門さん、芝居茶屋亭主・梅玉さんとの顔合わせのお世話をするのである。 花道が二本作られ、両花道には、男伊達と女伊達の役者さんが揃い、それぞれの名の短いが粋なつらねとなる。男伊達が、左團次さん、歌六さん、又五郎さん、錦之助さん、染五郎さん、松江さん、権十郎さん、團蔵さん、彦三郎さん。女伊達が、魁春さん、東蔵さん、芝雀さん、孝太郎さん、亀鶴さん、高麗蔵さん、萬次郎さん、友右衛門さん。 江戸奉行として幸四郎さんが、お祝いに駆け付け、我當さん、秀太郎さん、進之介さん、寿次郎さんと、本当に賑やかな木挽町芝居小屋前である。

そして、芝居小屋の中で口上をご披露ということで、四代目鴈治郎さん、扇雀さん、壱太郎さん、虎之介さん、藤十郎さんの芝居小屋前とは雰囲気を変え、厳かな襲名口上となるのである。 江戸歌舞伎、上方歌舞伎の二本柱という印象的な襲名披露の一場面となった。これだけの役者さんが、同じ舞台で拝見できるとは想像していなかったので、嬉しい趣向を凝らされた口上までの流れであった。

時代物で、幸四郎さんの梶原の『梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)』に始まり、口上となり、『河庄』へと続く。

これは『心中天網島』の一場面で、紙屋治兵衛と心中の約束までしていながら、治兵衛の奥さんの手紙から、治兵衛に愛想尽しをする遊女小春(芝雀)。信じていたのにと怒り心頭の紙屋治兵衛は、兄(梅玉)に諭されて小春への想いを断ち切る場面である。上方特有の治兵衛の怨みつらみがあり、その繰り返しを飽きさせずにみせるのが、治兵衛の役どころである。治兵衛の鴈治郎さんは、その怒りの様相を笑いをおこさせつつ、事情を知らないのであるから尤もであると納得させるが、そこで幕となるので、観ている方は事情が解ればなあと、気分が晴れない。

その気分をスカッとさせてくれるのが、染五郎さん、壱太郎さん、虎之介さんの三獅子の『石橋』である。江戸、上方と味わったあとで、両花道を生かした若さいっぱいの踏み、毛振りである。 すっきり艶やかな気分で、襲名のお祝いに相応しい心もちでの終演であった。