旧東海道・亀山宿~関宿から奈良(7)

地図を見て確認していたのであるが、奈良県庁と東大寺の間の道を真っ直ぐ北へ進むと佐保川にぶつかり、そこで二俣に別れ、直進が般若寺方面、右が柳生方面で、その柳生方面の道も途中で、柳生方面と浄瑠璃寺方面へと別れるのである。ただし、<旧柳生街道>は別に位置する。

私が、<般若寺>の帰りバスに乗ったのは、東之阪町バス停であろう。もしそのまま歩いてもどるなら、左に<転害門>をみて、右手の西方向に進むと<聖武天皇・光明皇后陵>があり、佐保路の一部である。御領を背に近鉄奈良駅方面の南に向かうと、<奈良女子大>がある。ここは、奈良奉行所の跡地で、本館と校門は明治時代の建築物である。そこから近鉄奈良駅へもどれば、行きとは違う道を戻れることとなる。

このことを、<般若寺>に行った友人に、こういう道もあったと教えると、「帰りはその道で帰ってきたよ。」とのこと。さすが調べていったようだ。完璧である。

友人は二月堂の<お水取り>を、上の回廊の方で見たそうで、今度は下から見たいとのこと。反対に私は機会があれば上で、見たいものである。あの下駄の音が聞きたい。

他の仲間が、「失踪したお兄さんを捜すため、妹が奈良を探し求め、奈良のほとんどが出てくる小説がある。」と言う。彼女の本の紹介には、なぜか乗りやすい。行ったところばかりなので、風景にのせた登場人物の動きなり、心理を追って行けばよい。ところが、一つ行っていない所があった。名前は出て来ないがある庭が出てくる。

そこは思いかけず雄大な風景が広がっていた。庭自体はそんなに広くないのだが、若草山や東大寺がすっぽり借景となって庭に深い奥行きを与えているのでだ。

この庭は、<旧大乗院庭園>と思われるのである。この小説に出てくる奈良で、ここだけは行っていない場所なのである。小説でも「五、答ふるの歌」の章で、かなり解明が深まるところである。小説に関係がなくても、訪れたい庭園である。次に訪れる時は、心して置こう。

小説名は『まひるの月を追いかけて』(恩田陸著)である。小説のほうは、兄を中心に二人の女性が、兄を通過しての心模様が映し出される。妹は旅を通して二人の女性のことを知り、そのことを通して幼い頃の記憶を紡ぎ出す。兄の中に存在する、遥か彼方にいるもう一人の女性との思いがけない巡り合わせとなる。奈良の風景が映像のように流れていく。

どちらも、近鉄奈良駅から歩いて行けるところなので、<奈良女子大>から<聖武天皇・光明皇后陵>までの道と<旧大乗院庭園>の空白部分を、埋められるであろう。