時代劇映画の流れ

忍者映画を何本か観て、『時代劇は死なず! ー京都太秦の「職人」たちー』(春日太一著)を手にした。「よくぞ、来てくれました!」である。時代劇映画の流れがよく解るし、時代劇映画に携わっていたそれこそ<影>の「職人」さん達のことが沢山のドラマとなって浮かび上がる。これは、春日太一さんのデビュー作であるが、よくぞ書いてくれたと思う。

今まで観た映画と重なり、さらに観たくなる。<時代劇映画ドンドン>である。黒澤監督映画の出現で、時代劇映画は変って行く。大映は、『座頭市物語』『忍びの者』。東宝は『切腹』。テレビ界では、『三匹の侍』。東映も『十七人の忍者』『十三人の刺客』など今まで脇役であった立場が主役となる。

『新撰組血風録』の原作者、司馬遼太郎さんは、東映の『新撰組血風録 近藤勇』には、「新撰組を動かしたのは近藤ではなく土方」だと激怒して、東映でのドラマ化を認めない。その時、池波正太郎さん原作の『維新の篝火』をみせ、原作を曲げないことを約束する。司馬さんは、この『維新の篝火』を気に入っていたという。

このDVDを借りる時、躊躇した。片岡千恵蔵さんの土方歳三である。近藤勇なら解かるがと期待せずに観たら、これが良かったのである。千恵蔵さんの悲恋も、作りかたで嵌らせることができるのだと、不思議な気分にさせられたのである。それを、司馬さんも気に入っておられたと読んだときは、やはりと思って、この本が益々面白くなってきた。

本を読む前に、映画『赤い影法師』『忍びの者』『続 忍びの者』をみた。『赤い影法師』は大川橋蔵さんで、橋蔵さんの忍者物は観たくないなと思っていた。この際だからと観たのであるが、市川雷蔵さんの『忍びの者』と違い、美しく、スター主義である。ただ、これはこれで、面白いのである。原作は柴田錬三郎さんである。柴田さんというと、和歌山県新宮市にある<佐藤春夫記念館>を思い出す。佐藤春夫さんの東京での住いを移築しており、一階にある暖炉のある洋室の応接間に畳が何畳か置かれ、そこに柴田錬三郎さんが訪れた時に座る定位置があったのである。佐藤春夫さんと柴田錬三郎さんとは異質の感じがするが、師弟関係も幅が広いものである。

映画『赤い影法師』は、関ヶ原で敗れた石田三成の娘が、木曽の女忍者となり、服部半蔵の子を宿し、その子が若影となって母影と共に行動する。若影が大川橋蔵さん、母影が小暮美千代さん、服部半蔵が近衛十四郎さんである。時代は徳川家光のとなる。その他の配役を紹介する。これが豪華。

柳生宗矩(大河内傅次郎)、柳生十兵衛(大友柳太朗)、徳川家光(沢村訥升・九代目澤村宗十郎)、柳生新太郎(里見浩太朗)、水野十郎左衛門(平幹二郎)、春日局(花柳小菊)。その他、黒川弥太郎、大川恵子、東野英治郎、山城新吾、沢村宗之助など。

作品公開が1961年。監督が小沢茂弘さんで、これがまた、司馬さんが激怒した『新撰組血風録 近藤勇』の監督でもある。『新撰組血風録 近藤勇』が見たくなる。スター主義に則った忍者映画である。大川橋蔵さんが忍者役でもきちんとファンの期待には応えている。母影の小暮さんと若影の橋蔵さんの組み合わせもいい。そして、若影と父・服部半蔵との対決も近衛さんが好演である。近衛十四郎さんは、他のスター役者さんとは一味違うリアルさを含んだ演技である。ここから、『柳生武芸帖』に行くのがわかる。大友柳太朗さんの柳生十兵衛は納得できなかったが、『十兵衛暗殺剣』(1964年)の近衛十四郎さんの柳生十兵衛と対決する、幕屋大休の大友柳太朗さんで満足。この対決は見応えがある。湖面の照り返しを顔に当てる撮り方なども工夫がたっぷりである。

『忍びの者』が1962年であるから、時代劇の風の流れがわかってくる。それを教えてくれるのが、春日太一さんの『時代劇は死なず! ー京都太秦の「職人」たちー』である。好きに時代劇映画を選んでも、時代的流れの中に位置付けできるので、楽しさが倍増される。

時代劇がテレビの時代となり、近衛十四郎さんの『素浪人月影兵衛』大川橋蔵さんの『銭形平次』、『新撰組血風録』『木枯らし紋次郎』『必殺シリーズ』『鬼平犯科帳』等々が生まれる流れも解き明かされる。

さらにそこに映画の<影>の職人さんたちがどう係ってきたかを、綿密に取材し書かれているのであるからたまらない。スター主義の映画も役者さんの見どころを組み合わせる手法も好きであるし、その衣装、美術、撮る角度、セットの豪華さも見る楽しみ一つである。リアル系にいけば、いったで、その影の力の勢いは映像に現れるものである。

時代劇映画を懐かしさで見ていない者にとって、『時代劇は死なず!』は必読の一冊である。