笠間と益子へ

藤の咲くころ、友人に茨城の美味しいお蕎麦屋さんへ連れて行くと声をかけられ、美味しいと聞くと執念を燃やす友人も加わり連れて行ってもらう。

笠間なのだそうで、『笠間稲荷神社』、『笠間日動美術館』、魯山人の『春風萬里荘(しゅんぷうばんりそう)』、『茨城県陶芸美術館』など、見どころの多い所で三回ほど訪れている。彼女は、日常に疲れると笠間、益子を訪れ、時には車を近くに置いて半日の登山などもするらしい。全くのお任せコースである。日動美術館と春風萬里荘は入っている。

お蕎麦屋さんは、こんなところにお蕎麦屋さんが本当にあるのという一本道を入って行く。途中に営業中の小さな木の板が出ていて、ここで営業中かどうかを知るらしい。営業時間が短いので、電話で聴くのを忘れてしまうが、今回は私たちを連れていくので営業していると確かめてくれた。家があった。普通の別荘風の家でお蕎麦屋をしようと思っての建物ではない。のれんもなく、中はレストラン風であるが、お蕎麦屋さんである。リピーターがいて、次第に席が埋まっていく。友人が薦めるだけあって美味しかった。

次に、早めにいかなければ売り切れる時もあるからと、お豆腐屋さんへ。小さなお店である。お豆腐、がんも、あげ、厚揚げなどが取りやすいように何個か紙袋に入れられたりしていて、効率よく並べられている。おからの冷凍したのが保冷材として10円で売られていて、解ければそのまま調理すれば良いわけである。このアイデアは素晴らしい。狭いながら、豆腐ソフトクリーム座って食べているお客さんもいる。私たちは外の日蔭で食する。

笠間稲荷では、見せたいのは後ろと、後ろにまわる。見事な彫刻である。ただこのままでの野ざらしで大丈夫であろうかと保存状態が気にかかる。ここも来ているが後ろまでは気がつかなかった。日動美術館。春風萬里荘へとまわる。この江戸時代の日本家屋は北鎌倉で北大路魯山人さんが30年間住んで居た旧宅を移築したのである。驚いたことに春風萬里荘は以前きたときは、だれも見学者がいなくて係りの人も一人であったが、今回は外人さんが多く訪れていて、係りの人も二人いた。ぼんやりと庭を眺めつつ抹茶を口にするところであるが、賑やか過ぎ時間もないのであきらめる。

最期は、友人のお気に入りの喫茶店で、ギター制作のお店と小さなギャラリーと喫茶室のある建物である。彼女も何があるのだろうと入って知ったのだそうであるが、その作家さんの変わるギャラリーも喫茶も彼女のお気に入りとなったようである。その日は古布を洋服や小物に作り変えている方の展示であった。入ったらミシンの前にいた作家さんがいなくなってあれっと思ったが狭いので勝手に見て下さいと席をはずされたのかもしれない。

それからお茶をして、帰るときもう一度のぞくと居たので、気に入った藍染めのマフラーの布は何かと尋ねると紬だという。肌触りが良かったが値段から考えると信じられない。友人にこれ買いなさいと薦める。友人が「えっ、いいの!」という。「譲る!お金は出さないけど連れて来てくれたんだから、いい買い物してよ。」オーナーで喫茶室のママさんが「売れなかったら私が買うつもりだったのよ。」といわれる。皆、目をつけていたのだ。友人は自分の快適と思う解放の場所を時間をかけて見つけていた。

その友人から再び、お蕎麦食べに行くと声がかかる。メンバーは同じである。日動美術館に鴨居玲さんの部屋が出来たとの情報を知っていたので、行きたいと思っていた。調べると企画展が<孤高の画家 熊谷守一と朝井閑右衛門>である。願ったりである。お蕎麦のあと、美術館へ。鴨居玲さんも激しい魂の慟哭と闘った絵描きさんである。何回か自殺未遂をされ、「司馬先生くるい候え」と赤ペンでかいた原稿用紙への遺書的文もあった。あごから頭にかけタオルを巻き、自分の自画像を描いている写真があったが、まるでゴッホが耳を切り落とした時のような姿で自分を描いていて、その闇ははかりしれない。教会が空を飛んでいる青い絵。

朝井閑右衛門さんは初めてである。ルオーのような画風の時期もあり、絵の具との葛藤も見受けられる。熊谷守一さんは好きなのでただ色と空間と形を愉しむ。どうしてあらゆる可能性のある無数の線の中から一本確定し簡単そうに決めれるのであろうか。

友人が書が気にいったという。私が最初に熊谷守一さんを知ったのは、白洲正子さんの旧白洲邸『武相荘(ぶあいそう)』の日本間に掛っていた「ほとけさま」と書かれた書の掛け軸からである。文字でありながらそこに仏さまがいるような不思議な温かさがあった。大きすぎてはいけないバランスのよさがある。それを書いた人が熊谷守一さんで画家であった。仙人のような方である。

それから、水戸の茨城県近代美術館へ 中村 彝さんの絵を見に行こうかという話しになったが、時間的に慌ただしいから、益子にしようということになり、益子の友人のお気に入りのお店を案内してもらう。藍染めの作業場のあるお店はお休みであったが、少し見せてもらう。藍の入ったかめの多さに驚いた。

益子には沢山の陶器のお店があるので、彼女の行くままに覗いて楽しませてもらった。帰りに寄ったお店のビーフカレーも美味しかった。まろやかでありながらきちんと辛さもある。ピザも味見をさせてもらったが美味しい。彼女がお勧めのお店はお値段もリーズナブルなのが嬉しい。そして、土地柄、器も楽しませてくれる。かなり通い気に入ったところを案内してもらうのであるから、こちらは、全身が、栄養満点の旅であった。