国立劇場『研修発表会』『神霊矢口渡』(3)

二幕目<由良兵庫之助新邸の場>。初代吉右衛門さんが上演されてから100年目の上演場面である。この場が座談会でも出たが『熊谷陣屋』と類似しているのであるが、兵庫之助には協力者がいた。

由良兵庫之助新邸とあるが、兵庫之助は足利尊氏に寝返り新しい領地をもらったのである。そこには、妻の湊はいない。息子の友千代が腰元たちと遊んでいる。そこへ、兵庫之助(吉右衛門)が尊氏側の江田判官(歌六)を伴って帰ってくる。江田判官は別室に下がる。

偶然にも湊と筑波御前は新邸に一夜の宿を頼む。夫とは違い滅びた新田家に仕えしっかり筑波御前を守っている湊は、夫に考え直してくれるよう懇願するが、兵庫之助はにべもなく二人を追い出してしまう。

今度は怪我をした南瀬六郎がたどり着き、裏切り者の兵庫之助に立ち向かうが、徳寿丸は助けてやると言われ隣室に入る。そこへ、足利の重臣・竹沢監物(錦之助)が犬伏官蔵(大谷桂三)と焼餅坂下で徳寿丸の顔を見た長蔵らを伴って南瀬六郎と徳寿丸の首を渡せとせまる。兵庫之助は躊躇することなく六郎を弓で射る。六郎は無念とばかりに自刃する。兵庫之助は、徳寿丸の首を差し出す。長蔵が徳寿丸だと証言するので監物らは引き上げる。六郎は無念なことであろう。

そこへ筑波御前と湊が馳せ参じ驚愕する。兵庫之助は二人を残し冷ややかに奥へ引っ込む。筑波御前は自害しようとするが、兵庫之助が徳寿丸を抱きかかえて現れる。実は、六郎の守っていた子は兵庫之助の子・友千代で腰元たちと遊んでいたのが徳寿丸だったのである。兵庫之助は事の次第を語り始める。

兵庫之助は、義興から不興を買い扇子を投げられる。そこには、徳寿丸を頼むとあり、六郎も加わって尊氏から徳寿丸をまもる計略を立てていたのである。六郎の死も最初から尊氏側を欺くための覚悟の上であった。

隠れて話を聞いていた長蔵は、尊氏に諌言しようとするが、江田判官に殺されてしまう。判官は兵庫之助を敵ながらもあっぱれと、お互いに戦場での再会を約束するのであった。

首実験の時に、湊と筑波御前もおらず、六郎が自刃して敵を欺いてくれたので、熊谷と違い、寝返った悪しき兵庫之助を崩さずに吉右衛門さんは押し通す。そして、わが子の死に対し湊と共に豪快な笑い泣きとなり、その辺りが流れとして二面性が一気に露出して兵庫之助に膨らみがでた。役者さんも揃い、首実検もしっかり行われ疑う事の無い騙され様であった。

兵庫之助の吉右衛門さん、江田判官の歌六さん、湊の東蔵さん、筑波御前の芝雀さんと徳寿丸で大きさが出て幕となる。

どうして通しで上演されて来なかったのであろうか。次の三幕目も面白いし、新田義興の怨念が娘お舟の力添えによって成就するというのが流れとして判ると<頓兵衛住家の場>が今までよりしっくりと落ち着く。何か納得していなかったのである。