『サクリファイス』(近藤史恵著)からの連鎖

旧東海道歩きのとき、本とか映画とかの話しが出るが、ふんふんと聞いていると次の時には手渡される。読みたい本が積んであるのだがと思うが、受け取る形となり、借りた本は横眼でみているが、そろそろと思い読み始める。

『サクリファイス』。読みやすく、自転車ロードレースの世界の話しで全く知らない分野なのであるが引力が強い。始めに誰かの死があり、その死の解明でもあるが、自転車ロードレースというスポーツの想像を超える展開に文字が飛んでいく。

自転車ロードレースはチームで参加し、そのチームにエースのために働くアシストという役目の選手がいる。エースの勝利のために走るのである。そのアシストが主人公で、アシストとしての眼が、自分に、エースに、チームメートに、試合の展開にと、心理の動きも追って行き、さらに過去との交差もある。アシストの自転車に乗っているようなスピード感で、周りの風景も動いているような気分にさせられる。思いがけない展開に終盤はウルウルさせられる。スポーツ小説であり、ミステリー小説であり、心理小説でもある。

貸してくれた友人に「面白かった」とメールしたところ、続きの『エデン』と外伝の『サヴァイブ』がきた。そして、断ったはずの有川浩さんの『図書館戦争』4冊と『レインツリーの国』が。

『レインツリーの国』は、『図書館戦争シリーズ②』の『図書館内乱』に出てくる小説作品名であるらしい。難聴者の少女に聴覚障害者を主人公にした本を勧めたということが人権侵害に当るとして、図書隊員がメディア良化委員会の査問を受ける。人権侵害を受けたとされる少女が、反対に、障害があると恋愛小説の主人公になってはいけないのかと反論するらしい。そのことは友人から聞いていた。『レインツリーの国』は後で、別に一つの作品として書かれたもので、友人は『図書館内乱』から読んでから、『レインツリーの国』を読んだほうが良いとのことであるが、内乱で『レインツリーの国』を先に読もうと思う。

近藤史恵さんの本は読みやすく、『エデン』『サヴァイヴ』と単行本なので早く読みすすめられた。レースの駆け引き。ただ走っていたいのにそれだけでは済まされぬ現実。思わぬ妨害。思いがけない人との繋がり。しかしやはり『サクリファイス』が一番面白い。

近藤史恵さんは歌舞伎も好きで、歌舞伎に関連した作品も書かれている。歌舞伎界の内実を題材とした本は読みたいと思わなかったのであるが、読みやすいので『二人道成寺』を見つけて読む。歌舞伎の『摂州合邦辻』に絡め、歌舞伎役者さんの奥さんが火事で意識不明となる事件から謎解きが始まり、役者同士の確執の影や愛の炎が垣間見えてくる。ところが、歌舞伎の演目の<愛>は唐突で始め表面には出なくても実は濃厚な構成であるため、小説の世界の<愛>が意外と水彩画のように映る。改めて歌舞伎芝居の内容の濃密さを感じてしまった。

借りた本の時間稼ぎに、適当に本を選んで押し付ける。その中に旧東海道関連として、阪妻さんの大井川の金谷を舞台とした川越え人足と拾った赤ん坊の人情話し『狐の呉れた赤ん坊』のDVDと、勝小吉の『夢酔独言』の出奔の部分だけ付箋を張り、歩いたところの参考にと加える。

それにしても、『図書館戦争』文庫本4冊。きつい。文庫本ロードレースの山岳コース。単行本に化けて欲しい。

知りませんでした。『レインツリーの国』が映画になったのである。

『図書館戦争』がアニメ化されたが『図書館内乱』の中の「恋の障害」のエピソードはDVDの三巻で、TVでは放映されなかったらしい。<アニメ化の大前提として聴覚障害者の毬江のエピソードはTVでは放映できないということがあった>とする有川浩さんの文を、文庫の解説(作家・山本弘)で紹介されている。

フィクションの世界であっても、それは現実と違いすぎるという障害者の方々から意見があるのは自然のことである。そのことが面倒だからと、フィクションの世界から閉ざしてしまうのは反って不自然のように思える。テレビというメディアの大きさがそうさせるのであろうか。そういう現実があるということを知った。単に売り上げをあげるためにことさら歪曲して宣伝的に書いたのか、何かおかしくないかと問題点として書いたかは、作品を読む読者の読み取る側に託されてもいる。