中山道 『奈良井宿』(1)

3月27日、福島県白河市での<安珍念仏踊り>を見るための旅の計画をしていたのですが、雨の予報なので来年に延ばすことにして、中山道で<奈良井宿>が気になっていましたのでそちらに変更しました。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: DSC_1355-1024x576.jpg

JR中央線の奈良井駅から一キロほどの宿で、見学に3時間あれば大丈夫であろうと思っていましたら、結果的に5時間近くも滞在することになりました。それも昼食もとらずにです。いやはや本人が一番驚いています。

駅で簡単に観光について教えていただきました。一応中山道の一番の難所である<鳥居峠>についても聞きましたが、2日前の雪でさらに難所のようです。

まだ9時前ですから見える宿場の家並みには静かです。線路をくぐる地下道を進み、ふれあい広場にむかいます。地下道の横を流れている細い水路の音が響き、流れの勢いをかんじます。ふれあい広場から国道19号に向かって奈良井川を渡る新しい<木曽の大橋>が架かっています。階段上になった太鼓橋で、木曽檜でできた橋脚のないもので雪が残っていて左側の雪のないところをあがり川をながめ引き返しました。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: DSC_1361-1024x576.jpg

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: DSC_1363-1024x576.jpg

さてほとんど一人占めの奈良井の宿の家並みをゆっくり鑑賞します。重要伝統的建造物群保存地区で奈良井ならではの保存にかける取り組みの感じられる町並みです。二階が一階よりも少し前にせり出ている「出梁(だしばり)造り」で、一階の格子から二階にかけてその風情がよくわかります。

湧き水の<水場>があって、歩いていると幾つかに遭遇しますが、奈良井の表通りには六ヶ所あるんだそうで、後で案内図で数えたらありました。<横水><鍵の手><宮の沢>など名前がついています。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: DSC_1367-576x1024.jpg

最初の見学場所は<中村邸>で、くぐり戸を入ると外国の方たちの団体さんがすでに見終わって帰るところでした。電車の本数の少なさからこちらは早いのですが、もっと早いかたが外国のかたとは、どんなコースでまわられているのでしょうか。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: DSC_1397-1024x576.jpg

中村邸は塗り櫛の問屋さんだった住居で、建物の説明もあり見どころありです。「出梁造り」で奈良井の場合の特徴は二階と一階の間にもう一つ小さな屋根があるのです。その上に「猿頭」といわれる波形のような木が並べられています。何のためなのかはわからないそうで、今の商店の小さなアーケードを兼ねていたのではといわれていましたが、雪の降るところですからそういう役目もあり、飾りも兼ねていたようです。中の梁が壁を突き抜けて外にまで出ています。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: DSC_1399-1024x576.jpg

道路側の蔀(しとみ)が三段階になっていて、真ん中の障子をまず外し、上のしとみを上にあげて金具で止め、下のしとみを上に移動し外すと店開きとなるわけです。さらにしとみを支えている真ん中の柱も外すことができ、全開となります。説明だけですがよくわかります。そして、しとみも障子の予備があって、締めて明かりが欲しい時は障子の数を増やすのです。さらに、雨戸にあたるものは、中で重ねるかたちとなっています。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: DSC_1427-1-1024x576.jpg

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: DSC_1376-1-1024x576.jpg

その天井に四角のでっぱりがありました。それは、二階に炉を切ってあるのです。京都からの商談で訪れる人も多く、その人たちのために二階でお茶のもてなしをするためです。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: DSC_1383-1024x576.jpg

天保8年(1837年)の大火のあとに建てられたもので、間口が狭く奥行が長い建物です。住居の真ん中が炊事場になっていて吹き抜けです。寒いので両方に少しでも暖がいくようにとのことのようです。そのため二階が表二階と裏二階に別れています。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: DSC_1392-1-576x1024.jpg

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: DSC_1379-1-576x1024.jpg

表二階には炉がありました。道路に面した障子戸が開いていて、小屋根と「猿頭」を見ることが出来ます。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: DSC_1375-1-1024x576.jpg

裏二階には、塗り櫛の展示もされています。櫛の原木は「みねばり」の木で非常に硬く「斧折れ(オノオレ)」とも呼ばれていた木で、そのほか「ずみ」「さくら」も使われていました。土産物として江戸、京都、大阪と全国的に人気があり大繁盛したようです。

 画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: DSC_1385-1024x576.jpg 

旅のお土産としては、軽くて小さいですし、女性が喜ぶでしょうから、愛妻へ、あの娘へと相好をくずして男性たちも買っていたことでしょう。漆ぬりですので美しい光沢の櫛が並んでいました。それから、土蔵に保管されていたという花櫛の写真もありまして、薄い絹でつくった造花が櫛に飾られていて、つまみ細工の技術がなかったので東京に送って製造したのだそうです。

説明には、島崎藤村さんの詩「初恋」の<前にさしたる花櫛の>の解説も書かれていましたが、この花櫛をさしていたなら、高価なものと思われますので相手がどういう人か詮索できますが、詩人は結構事実を自分の情感にあわせて言葉を選び脚色しますので、その件は想像にまかせますが、この中村家はなかなか商才のあったかたとお見受けします。

蔵の中にも木櫛が展示されていましたが、「月型」「鎌倉型」「利休型」「京型」「おはつ型」「お婆さん型」など様々な形があったのです。

ところで大繁盛だったこの中村邸ですが、空き家となり、神奈川県川崎市の「日本民家園」に移築の話しが持ち上がったことがあるのです。その時、住民の保存意識が高まり、復元修理して資料館として残ったそうで、ここに残ってよかったです。やはりこの奈良井宿で見れるからこそ、見る者もいろいろ当時の様子が膨らみ想像が高まります。

東京都小金井市にある「江戸東京たてもの園」へは行ったことがありますが、川崎の「日本民家園」はまだでしたので今度訪れることにします。思わぬところで新たな刺激を伝授してもらいました。

2017年4月1日 | 悠草庵の手習 (suocean.com)