国立劇場 『西行が猫・頼豪が鼠  夢市男伊達競』 (3)

雪ノ下にある市郎兵衛宅。北條家の伝内(團蔵)と伴六(亀蔵)が訪ねてき、痛めつけられた返礼として市郎兵衛を打ち据える。市郎兵衛は大江家に災いせぬ様にと我慢する。伝内は帰り際、白金の猫の置物を見つけたのでこれから鎌倉に持参すると小脇に箱を抱えている。市郎兵衛は大江広元がその役を担ったので何とか手に入れたい。その父の思いを知っている息子の市松(藤間大河)がその箱を奪おうとして箱を落としてしまい中の猫の置物を壊してしまう。大変な失態で市郎兵衛は自分の手で市松を差し出すと明言する。実はこれは偽物で明石がそれを知らせてくれる。市郎兵衛は大磯に本物があるらしいとの情報から、女房のおすま(時蔵)の妹・薄雲(時蔵)のつとめる廓・三浦屋へ向かう。侠客・夢の市郎兵衛一家の一体感を市松を中心に上手くまとまった。市郎兵衛の子分、権十郎さんと亀寿さんも無理の無い任侠ぶりを体で示す。侠客の子分はその雰囲気を出すのが難しい。若いと形にならず襟を直したりと手の持ち場に困ったりしそれを見ている観客も困ってしまう事が多い。

ここで七福神の踊りがある。日本橋の七福神と思っていたがここで先にお会いしてしまった。毘沙門天の松緑さんの手と指の形の美しさに驚いた。仏像の美しい手を感じた。毘沙門天と弁財天(時蔵)は義仲と巴御前に変身して踊る。これが岩佐又兵衛の絵を見ているようであった。

薄墨は大の猫好きで愛猫の玉を亡くし供養に出かけていた。そこへ虚無僧の深見十三郎(松緑)が現れお互いに魅かれる。十三郎は猫が苦手のようで薄墨は猫に関係する物は全て片付ける。新造胡蝶(菊之助)はどうも十三郎が信用できない。その辺りの探りあいも丁寧である。胡蝶は十三郎の後を追う。十三郎は義仲であった。巴に似ている薄墨に近づいたのである。廓の世界も役者さんの為所がよくその空気を漂わせているので荒唐無稽の話でも楽しめる。

三浦屋の台所で胡蝶と鼠の妖術を身に付けた義仲の戦いとなる。これがアニメの世界である。胡蝶はその様子からして猫の精だなと解かるので違和感無くアニメの世界へ突入である。台所用品が大きくて胡蝶が小さいのである。猫になってしまったのである。猫と鼠の戦いである。胡蝶が二本の長い棒をあやつる。次に短いのに。棒を平行に持ったりするのでこれは太鼓の撥のような働きをするなとピンときた。やはり色々な物を叩き音楽性もだした。猫と鼠だから身も軽い。しかし、胡蝶は義仲に負け深手をおう。

胡蝶は玉の化身で薄墨を助け、さらに白銀の猫の置物も携えていた。胡蝶は置物を市郎兵衛に渡し薄墨に見取られ息をひきとる。

義仲は市郎兵衛の持つ白銀の猫の置物を突きつけられ消えてしまう。病の治った頼朝(左團次)、頼家(萬太郎)、大江広元(松緑)が現れる。ここで客席に笑いが。頼朝を苦しめていた頼豪の亡霊と頼朝が左團次さんの二役なのであるからまことしやかな頼朝が可笑しい。仕組まれたのかも。広元は市郎兵衛の褒美として家の再興を願い出るが、市郎兵衛は町人の暮らしが善いとして、男伊達を貫くのである。<夢市男伊達競>

3日の夜中・4日の早朝 1時からこの芝居がNHKBSプレミアムで放送される。亀治郎の会さよなら公演も同時放送である。舞台の全体像が見れるので楽しみである。