映画 『大忠臣蔵』

12月14日、赤穂浪士討ち入りの日が選挙日である。自分たちの意見を反映するこの一票に何百億円の税金がかかっているのである。政治家がお金を出して、ご意見をどうぞと言っているわけではない。自分たちが納めた税金である。棄権などして税金の使われ損にされてはたまらないからきちんと投票します。

1957年の映画『大忠臣蔵』を見た。『仮名手本忠臣蔵』をもとにしている映画で、文楽や歌舞伎 でやっているものを、映画ではどうなるのか見たいと思っていた。重要な場面を取り入れ、映画的娯楽性も加味されていて楽しませて貰った。

大石内蔵助が、市川猿之助さん(初代猿翁)、大石主税が市川団子さん(二代目猿翁)、矢頭右衛門七が、市川染五郎さん(現・幸四郎)さん、立花左近が松本幸四郎さん(初代白鴎)さん、加古川本蔵が、坂東蓑助さん(八代目三津五郎)等が歌舞伎界から出演している。新派からは大石の妻・お石に水谷八重子さん(初代)。本蔵の妻・戸無瀬に山田五十鈴さん。映画界からも豪華メンバーが出演している。

歌舞伎にはない場面でも出演者の見せ場として作られている場面もある。

仇討が決まり、矢頭右衛門七が年齢が若く参加を認められないが、主税が認められて自分が認められないのは足軽の子ゆえかと主張し認められる。

内蔵助と立花左近との対決は、内蔵助が東下りの際、禁裏御用金を運ぶ役目として関所を通ろうとするが、それを止める関所守を左近としており、勧進帳を重ねて緊迫感を出している。内蔵助はそっと、<道中記 内蔵助>と書かれた道中記の表紙をみせ、左近は納得するのである。

討ち入り前、内蔵助が瑤泉院(有馬稲子)を訪ねそっと連判状を浅野内匠頭(北上弥太郎)の位牌の前に置き、それを、吉良の間者が盗み出す場面などである。

お馴染みの、おかる、勘平は高千穂ひづるさんと高田浩吉さんで、この辺りはきちんとえがき、勘平の切腹までを映画ならではの上手い運びとなっている。おかるが勤めにでる一文字屋の女将の沢村貞子さんと源太の桂小金治さんの雰囲気がよくはまっている。

おかるを請け出す内蔵助との場面、おかると兄・寺岡平右衛門(近衛十四郎)の場面も違和感がない。幇間の伴淳三郎さんのちょっとの出がいい。

そして光るのが、お石と戸無瀬の対決である。女性がやれば、このお二人しかいないと思う。小浪が嵯峨三智子さんで可愛らしい。死ぬ覚悟の時は、刀ではなく短刀であった。戸を外す仕掛けはやらなかった。どうするのかと興味があったが、映画では無理と思う。猿之助さん、蓑助さん、団子さんはよく解っている場面なので、それぞれ印象深い場面に仕上がっていた。

清水一角(大木実)が赤穂浪士に武士の生き方として心情的に魅かれていて、吉良家で茶会があるのを教え、吉良の逃げた先も教えるという形をとっている。

『仮名手本忠臣蔵』をなぞりつつ流れが上手くいくように工夫されていて、歌舞伎特有の節回しもなく、映画の『仮名手本忠臣蔵』として楽しめた。渋みのある初代猿翁さんもたっぷり見ることができた、他の忠臣蔵映画とは一味違う味わいとなった。

監督・大曾根辰保/脚本・井手雅人/撮影・石本秀雄/美術・大角純一/音楽・鈴木静一