新橋演舞場 『寿三升景清(ことほいでみますかげきよ)』

景清といえば、<阿古屋の琴ぜめ>で、阿古屋といえば景清と切っても切れない仲であるが、今回は景清中心の荒事である。話がトントントンと進み、趣向もあってフンフンフン、、、アレアレアレ、、、そうくるのかと思っている内に終わってしまった。

平家一門も源氏によっておおかた片付いたが、まだ景清が残っている。その景清を何んとか捕らえようとする。ところが景清は自分から捕らえられ牢に入る。その捕らえられる前に岩屋の中で景清(海老蔵)は、重盛、知盛、安徳帝が姿を現し自分に語り掛ける心の内を独白する。そして岩屋に幕が下りるとその幕に<心>と書かれている。

半分夢の世界なのか、曹操の姿の武士のところに関羽の姿の景清が現れる。何か力を保持する暗示なのであろうか。ここがよく解らない。

鍛冶屋の所へ修行僧になった景清があらわれ、自分の刀をもう一度叩いてくれと託す。そして髭も剃って欲しいと頼む。鍛冶屋四郎兵衛(左團次)は承知する。凄く立派な衣装の景清が現れ、やっと荒事の<景清>となる。花道のすっぽんからは鍛冶屋四郎兵衛、実は三保谷四郎が鎌を持ってあらわれる。その鎌で首を取ろうとするが切れない。景清は自ら捕らえられる。この時、猪熊入道(獅童)が道化になって色々仕掛け、景清は縛られ入道に引かれて花道へ。花道での海老蔵さんと獅童さんとの掛け合いがあり、お客様は大喜びである。私はこういう時の獅童さんの声とか台詞回しが素で好きではないのであるが、重忠が大満足だったので差引プラスとする。

阿古屋のいる花菱屋である。花菱屋の女将(右之助)さんが場を絞めてくれた。着物、帯、立ち姿も決まっている。阿古屋の芝雀さんが出て、雰囲気が古風になった。若々しい舞台の中で、ぐっと落ち着いた。花菱屋に来ていた秩父庄司重忠(獅童)も品と色気があり、今回琴ぜめはないがその場が想像できる。今回の獅童さんの重忠は納得である。役の寸法にかなっていた。阿古屋は六波羅での取り調べのため花魁道中で出向く。この趣向は阿古屋の景清の思われ人としての度量がでた。

捕らえられている景清と重忠との問答。海老蔵さんと獅童さんも良いコンビである。景清は、頼朝が平家のみならず、一般の女、子供を犠牲にしているのが許せない、天下泰平は平民を守護することだ主張。重忠はそれこそ頼朝の目指すところであり、頼朝からの志として、牢の鎖を解いてやる。そこから、景清は牢破りとなり一暴れする。その時、津軽三味線が入る。想像ではもっと激しく響くと思ったがリズム感のみで意外と単調であった。雪が欲しくなるが、景清の後ろには巨大な海老が鎮座していた。

一般のお客様が舞台の左右特別席に16人づつ座られての観劇である。鐘の中に入り、鐘から出て<解脱>ということであろうか、華やかな中での踊りで締めくくりである。こちらも若手が頑張っていた。廣松さんの役に徹する身体の安定さは、12月の国立の時と同様感心した。

暗い平家物も、荒事中心ということであり、明るいタッチで若々しく終わったが、もう少し重くてもいい。そのほうが荒事が荒事としてもっと生きると思うし台詞に実が加わわると思う。荒事の成田屋は前進している。

 

 

 

『上州土産百両首』から若者映画

歌舞伎の『上州土産百両首』浅草公会堂 新春浅草歌舞伎 (第一部)から現代の若者映画に思いが移った。二人の江戸時代の世の中から外れた若者の友情と絶望と復活。その辺りを現代の映画はどう描いているか。などと大袈裟なことではないのであるが、たまたま見た映画三本が、屈折があり面白かった。

『まほろ駅前多田便利軒』『僕たちA列車で行こう』『アヒルと鴨とコインロッカー』

瑛太さんのファンではないが、三本とも瑛太さんとのコンビの映画である。瑛太さんは共演者の個性の映りを引き出す何かがあるのかもしれない。

『まほろ駅前多田便利軒』は、三浦しをんさん原作(直木賞受賞)で、その前に『舟を編む』の小説と映画に接していたからである。『舟を編む』が思いもかけない辞書編集者の話で<まほろ駅前>の駅名もミステリアスで行きたい気分にさせてくれた。松田龍平さんが出ているのも気に入った。わけありの幼馴染が出会い、便利屋をやっている主人公と一緒に暮らし仕事をする。それぞれの過去を知り、それぞれの感性の違いが際立ってくる。これ以上の腐れ縁は沢山だと思いつつ、また一緒に暮らし仕事をすることになる。監督・脚本は大森立嗣さんでこの監督の映画は初めてである。

『僕たちA列車で行こう』は、列車の走る外と内と車窓の映像が沢山見れそうで選んだ。監督・脚本は森田芳光さんで、森田監督の遺作である。コンビは松山ケンイチさんと瑛太さん。鉄道好きな二人で松山さんは、車窓を眺めながら音楽を聞くこと。瑛太さんは、実家の鉄工所の仕事を手伝っており、車輪の音やシートの手すりのカーブなどに興味がある。マニアックな趣味の持ち主であるが、それが功を奏して人生上手く回る。上手くいかなくてもこの二人のマニアックさは変らないであろう。

『アヒルと鴨とコインロッカー』は、映画『はじまりのみち』で注目した濱田岳さんが瑛太さんと絡むとあったからである。原作は伊坂幸太郎さんで、初めて(吉川英治文学新人賞)。監督も初めての中村義洋さん。脚本は中村義洋さんと鈴木謙一さん。仙台で大学生活を始める濱田さんがアパートの戸の外で段ボールを片づけながら、ボブ・ディランの「風に吹かれた」を歌っていると、隣の住人の瑛太さんが声をかける。この映画はネタばれになると面白くないのでそこまでであるが、松田龍平さんも出る。原作は解らないが、映画での濱田さんはこの役はこの人以外にいないと思うくらいはまり役である。今度は、伊坂幸太郎さん原作の『重力ピエロ』と中村義洋監督の『ジャージの二人』のDVDを借りてしまった。

歌舞伎の『陰陽師』の染五郎さんと勘九郎さん、『主税と右衛門七』の歌昇さんと隼人さんなど新しいコンビの芝居が増えるのを期待する。四月に三津五郎さんが戻られるようなので、三津五郎さんと橋之助さんコンビも嬉しいのだが。