『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ出来事)』と『龍三と七人の子分たち』

バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ出来事)』と『龍三と七人の子分たち』の二本の映画の関連性はない。たまたま、久方ぶりに新作映画を続けて観たのである。関連するといえば、かつて名を鳴らした人が埋もれていて、再起をかけて発奮するということであろうか。

バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ出来事)』は、かつて「バードマン」という映画で名声を得たスターが、今は映画の仕事もなく、舞台演劇の役者として再起をかけている。その主人公役が、マイケル・キートンで、彼は映画『バットマン』で主役のバットマンを演じたため、そのこととも重なって評判をとり、演技力も改めて認められた。「バードマン」は、<鳥男>という意味らしく、主人公のリーガン・トムソン(マイケル・キートン)は、落ち目となっても常にその<鳥男>に付きまとわれている。「バードマン」としての華やかなりしころの想いを<鳥男>は運んできて今の彼を苦しめる。

映画の中では、彼が望むと物が動いたりするが、それは、彼の心の妄想を表す。何とかブロードウェイでの舞台を成功させたいと必死なのであるが、その舞台裏は、お金のこと、共演する役者のこと、劇評家のことなど難問山積みである。さらに、離婚後引き取っている薬物依存症の娘(エマ・ストーン)をそばに置き、付き人として手伝わせている。役者の一人が装置の落下で怪我をして、新しい役者・マイク(エドワード・ノートン)を雇う。これが上手いのであるが、アルコール依存症である。怪我をした役者には保障金を請求され、マイクは舞台上で勝手な演技をする。 追い込まれたリーガンは「バードマン」となって自由に空を飛ぶ。そして彼はある決心をする。舞台のリーガンは迫真の演技を見せる。しかし、それは現実には失敗に終わる。現実には失敗するが、彼はそこで、<鳥男>と決別して飛べたのだと思う。娘が、ラスト「パパったら!」とにっこり笑うのがその証と思う。それが、長いタイトルの『(無知がもたらす予期せぬ出来事)』と解釈した。

これまた、解釈の分れる終わり方なのである。<バットマン>や<バードマン>(こちらは予想であるが)の奇跡的はハッピーエンドに重ねた。 マイケル・キートンとエドワード・ノートンのプライドの対決も面白い。思わぬ災難からリーガンのブリーフ一枚で街中を歩く姿がネットで公開となり、アクセス数が膨大な数となるのが現代のネット世界を象徴している。舞台裏をみせつつ、心理を超常現象にしているところが技巧的である。

映画『バットマン』も思い出す。どれが『バットマン』映画の中で一番かは、これまた好みがありケンケンガクガクである。

龍三と七人の子分たち』は、ただ笑って楽しむ、任侠おじいちゃんのファンタジーであり、任侠映画へのオマージュである。

兄貴分の龍三(藤竜也)とマサ(近藤正臣)は時々逢っている。昔の仲間のはばかりのモキチ(中尾彬)が詐欺行為の現場で、若い者に暴力を受けているのを助け、龍三がオレオレ詐欺に騙されたこともあり、組を復活させることにする。昔の仲間にハガキを出し、上野の西郷さんの像の前で一人、また一人と現れるのも見どころの一つである。 早打ちのマック(品川徹)、ステッキのイチゾウ(樋浦勉)、五寸釘のヒデ(伊藤幸純)、カミソリのタカ(吉澤健)、出来すぎの場面で登場する神風のヤス(小野寺昭)で、<龍三+七人>となるのであるが、この元ヤクザおじいちゃんたちの親分の決め方が面白い。それを記録する飲食店の店主の職業意識も笑わせる。これは、北野武監督が楽しんでアイデアをドンドンはめ込んでいったオモチャ箱である。

『バードマン』のリーガンがブリーフ一枚なら、龍三親分はもっとド派手である。案外繋がるものである。 どういうわけかことが起きると、京浜連合の若い者たちと繋がってしまう。因縁の対決である。騒動のきっかけは、はばかりのモキチである。この方、落語の『らくだ』のかんかんのうを踊るラクダの役目もし、何回も死んでしまう任侠映画の役者さんをも連想させる。はばかりながら、<はばかり>という言葉も死語に近いかも。バスで商店街を走る場面は、終戦直後の闇市を走り回るところを、老人だから、バスに乗せてしまおうと考えられたかどうかは謎である。

所どころに挟まっているセリフが、ㇷ゚ッ!と吹き出してしまう。 北野監督は遊びながらも、任侠おじいちゃんを格好よく収めてくれる。マルボウ担当の刑事役者として、仕方がないな格好悪くはできないしと、登場するのである。最後まで<龍三と七人>は恰好よく任侠を貫けるのである。

どうしてこの映画を観たかというと、世田谷美術館で『東宝スタジオ展 映画=創造の現場』を見たのであるが、範囲も広く展示方法に心踊らなかったのである。最後に、砧の東宝スタジオを使用したということであろうか、新作の映画のポスターがあり、そこに、『龍三と七人の子分たち』のポスターが目に止った。『オーシャンズ12』? 北野武監督? 情報つかんでなかったな。これは見ようと思ったのである。近日公開の同じようなポスター映画の予告をやっていたが、ポスターに関しては若手のほうが一歩遅れを取った感がある。 これは、えっ!と思ったときが勝負である。

昔を忘れられないおじさんたちの困った<八人>であるが、人にやらせるのではなく、自分たちが鉄砲玉になるのであるから、威勢がよくても笑って済ませられる。