八王子城跡

小説『RDG レッドデータガール』に<八王子城>が出てきて初めて八王子市にお城があったのを知る。ただし山城である。天守閣のある城ではない。

『RDG レッドデータガール』では、( 熊野古道の話題増殖 ) 主人公の泉水子(いずみこ)が東京の高校に入学するが その高校が八王子にあるらしいことがわかる。そして、泉水子たちは肝試しに夜、<八王子城跡>に登るのである。ここで初めて<八王子城>とその歴史を知る。<八王子城>に行かなくてはと仲間うちで話しつつ、行こうとすると雪が降ったりして延び延びになってしまった。

仲間の一人が、高尾山で春限定の精進料理があり、それも行きたい のだがということなので、高尾山と八王子城の二つを組み合わせることにする。雨の時は中止なので予約しなくてよい精進料理とし、11時からなので10時半に高尾山薬王院での待ち合わせとする。元気な人は先に、高尾山入口から山頂まで登り、降りてきて藥王院で待ち合わせである。

<八王子城>が本命であるから、体力温存組はケーブルカーで上がり、薬王院に向かう。ご本尊の随身は大天狗と子天狗(烏天狗)である。今回で高尾山は三回目であるが、全てケーブルを使っていて次の機会には、下から登ることにしよう。一度はダイヤモンド富士を見るために一人で来たが、期待していたよりもダイヤモンド富士は地味であった。

精進料理は、これから行動するものにとっては胃に優しかったが、これからが本番という気持ちも薄めてくれて、さあこれからと気合を入れる。

JR高尾駅北口からバスが出ていて、平日は八王子城跡まではバスは出ていない。霊園前でバスを降り歩きとなる。途中に北条氏照と家臣の墓がある。氏照はここでは死んでいない。

八王子城は、三代目の北条氏康の三男氏照が築いた山城である。豊臣秀吉は小田原城を取り囲み、他の北条氏の城は配下の大名たちに攻めさせる。氏照は小田城で徹底抗戦の構えでこもっていた。八王子城は、前田利家と上杉景勝らの連合軍に猛攻撃で攻められ、城主なきまま一日で落とされて、多くの犠牲がはらわれる。この八王子城の落城が小田原城開城のかなめとも言われ、氏照は小田原城で切腹している。小田原にも墓があり、ここは、氏照の百回忌に建てられたものである。樹木の間にひっそり建っている墓は無念そうである。

脇道のお墓からもとの道にもどり進むと、ガイダンス施設があり、映像「八王子城物語」が見れる。ここでパンフレットなどを手にし、管理棟まで行きガイドボランティアをお願いする。お願いして正解であった。山城の知識などないので、見学しただけでは想像力が働かない。

普段住居としている御主殿部分と闘うための本丸とは離れていて、管理棟を軸に道が違うのである。まずは御主殿跡を案内してもらう。石垣ではなく<土塁>で周囲をかこんでいる。これが石垣よりもすべって登りづらいのである。それも関東ローム層の粘土質である。ただ雨などで崩れやすいので、間に石を挟む形にしている。関東が石垣の城が出来たのが遅く城作りが遅れていたと言われるがそんなことはない。自然の力を生かしたのであると強調される。上の方に古道があり、そこから橋が架かって御主殿へ入るかたちとなるが、今その橋は架かっていない。新しくするため古い橋は外されてしまっていた。

<御主殿の滝>。多くの人々が滝の上流で自刃して身を投じたため、その血で城山川の水は三日三晩赤く染まったと伝えられる滝である。「今、小説やアニメの影響で心霊スポットとして知られています。」「私たちも小説組です。」「見ての通り、飛び込むような滝ではありません。城は焼かれますから、ここに逃げ延びて自刃したとは考えられます。」確かに想像していたより小さな滝であった。

御主殿跡には礎石の後に石が並べられているが、一度掘り返してまた埋めたそうで本物ではない。その礎石には、柱の焼け跡が残っているそうで、仲間が、「ガラス張りか何かにして見えるようにするといいですよね。勿体ない。」という。「そうなんですよね。一つでも本物をね。」なるほど。跡が残るほど火の勢いが激しかったということか。御主殿は、役所や争い事の仲介のような仕事の場でもあった。客殿が北向きなのは、その前の庭が南向きで、植物や花などが南を向くから良い姿を眺められるということで、北向きなのだそうだ。なるほどそういうふうにも考えられる。「庭の奥の小屋は茶室ではなかったかと想像するんですがね。」ここから、ヴェネチア産のレースガラスや中国産の皿も見つかっている。

解説を聞くと、次第に御主殿が想像の世界に表れてくる。というわけで、時間がオーバーしてしまい、本丸まで4、50分はかかるため往復する時間が無くなってしまった。ここは自然に恵まれ、12月には鬼女蘭という白い鬼女の髪の毛のような花が咲くと言う。それを食するアサギマダラという海をも渡ってしまう蝶が飛ぶのだそうである。本丸は再度12月に訪れよとのことと判断し、帰路につくことにした。

連休前の暑い日で、これから本丸まで登る気力が失せてもいたのである。新緑のこの自然の中で凄まじい戦さがあったのである。年に数人道に迷うかたや、違う方向に下りてしまうかたがいるという。「精進料理食べてる場合ではなかったね。」と提案者がいうが。「いいわよ。魔女蘭に会いに来よう。」「違う。鬼女蘭!」