歌舞伎座 八月歌舞伎 『龍虎』『勢獅子』

舞踏『龍虎』は、<龍>と<虎>との格闘のすえ、どちらも譲らずその決着はつかないという踊りである。衣裳は『連獅子』のように華麗な刺繍ではないが、形としてはそれに類似しているので、相当大きな動きをしていても、外目にはその苦労は解らないところがある。『連獅子』は親子の情愛、『鏡獅子』は胡蝶が可愛らしくそばで遊んでくれるので、そこの空間は落差がある。ところが、この『龍虎』は力が拮抗しつつも<龍>と<虎>の違いも表現しつつ相争う様を見せなければならないので、身体的にもきつい踊りと思われる。

初演は八世坂東三津五郎さんと三世實川延若さんである。いつであったか、現三津五郎さんと染五郎さんの『龍虎』を観ている。その時、期待したのであるが物語性に乏しくどちらをどう見たらよいかわからず左右を目がうろうろして<龍>と<虎>の違いがわからなかった。今回は義太夫三味線の竹本の語りという事も事前にわかり、音と言葉と踊りを捉えようとしたが、しっかり足が伸びてるなあとか、衣装の引き抜きや毛ぶりに気をとられたりして、またまた<龍>と<虎>の動きの違いを捉えるまでに至らなかった。若い獅童さん<龍>と巳之助さん<虎>の勢いをもらってよしとする。

『勢獅子』となったらどんな<獅子>が出てくるのだろうと思ってしまうが、お祭りの獅子舞いの獅子である。この踊りは、江戸時代のお正月には曽我兄弟の曽我狂言が行われ、それが大当たりすると、5月に曾我祭りを行ったようで、それがなくなり、それを舞台の所作事で復活させ、今は、曾我祭りではなく、山王祭当日の様子としている。よくお目出度い時には曽我物が出てまたなのと思ったりしたが、江戸時代の曽我兄弟の人気は今では想像しがたいほどで、歌舞伎にとってはかつてのスーパースターを讃える意味もあるのであろう。

踊りの中にも、鳶頭二人の曽我兄弟仇討の様子が取り入れられていたり、芸者が曽我兄弟の恋人の大磯の虎や化粧坂の少将の様子などで踊ったりする。かと思うと<ボウフラ踊り>などといわれる踊りや、違う鳶頭二で獅子舞をして、獅子のひょうきんな様子を演じ舞台上の人々や観客を楽しませてくれる。三津五郎さんと橋之助さんの鳶頭を中心に明るく軽快な祭りの一場面が舞台上にくり広げられた。笑みを浮かべたり、面白がったり、そうじゃないだろうと叱咤を飛ばしたり、俺が変わるよとばかりに身を乗り出して観ていた方が歌舞伎座のどこかに居られたことであろう。また、そのかたを喜ばす為にも来年の納涼歌舞伎も盛会となることであろう。

鳶頭(三津五郎、橋之助、彌十郎、獅童、勘九郎、巳之助)鳶の者(国生、虎之助)芸者(扇雀、七之助)手古舞(児太郎、新悟)