国立劇場 『東北の芸能V』(2)

五回目の今開催は、東北六県の芸能を存分に楽しませてもらった。

『寺崎のはねこ踊』は宮城県石巻市桃生(ものう)町寺崎に伝わるもので四年に一度の「寺崎八幡神社大祭礼」の時の踊りらしいが、今は毎年披露されている。この踊りの起源は江戸時代で、凶作が続き苦しんだ人々が、豊作に恵まれ歓喜して踊ったのが始まりだそうで、気持ちそのままの踊りである。ずーっと飛び跳ねている豊年踊りである。現在の衣装は模様入りの長襦袢である。はね易いようにであろう。裾の重ねが開き気味にされている。そのため足がむき出しにならないように、襦袢の下にお相撲さんの化粧まわしと同じような<マス>と呼ばれるものが締められている。白い房と鈴がついている<マス>が跳ねるたびに見える。お囃子が大太鼓、小太鼓、笛、鉦である。二枚扇を使い、お囃子が次第にはやくなるが、その速さに負けてはいない跳ね方である。豊作の喜びがビンビン響いてくる踊りであった。

『青森ねぶた囃子』は、あの<ねぶた>と跳人(はたと)とともに練り歩く。ねぶた囃子は、ねぶた祭りの始まりから終わりまである。「集合太鼓」、「小屋出し」、「出発準備」、ねぶた本番の「進行囃子」、「もどり囃子」、「小屋入れ」。その他、8月7日のみの「七日囃子」、賑やかな「ころばし」。跳人が「ラセラ、ラセラ」と掛け声をかけ跳ねる。お囃子に手振り鉦が加わりその手さばきがリズミカルで軽快で面白い。ねぶた祭りでは、大きな夜を照らすねぶたに負けないお囃子で盛り上げているのであろう。人を集め、ねぶたを小屋から出し、出発準備にまで、種類の違うお囃子が活躍していたとは。現地で本番だけ観ている人はきっと知らないであろう。まだ現地に行ってない者のひがみ誉かな。

『鹿踊大群舞』。これはずーっと見たいと思っていた。ししおどりは、岩手県と宮城県に伝えれていて、岩手県でもさらに「太鼓踊系鹿踊」と「幕踊系鹿踊」に分れ、さらに「太鼓踊系鹿踊」も流派がある。「金津流」「行山流」「春日流」。今回は「金津流」である。この装束が、興味深い。おそらく長い間に色々な影響を受け完成していったのであろう。背負っている白い長いササラ(腰竹)が地面を叩く(煽ると表現している)のが何んとも言えない形である。その起源も、狩猟の犠牲になった鹿の供養、鹿に遊ぶさま、中国の唐獅子の影響など様々である。それが庶民の信仰や神事と結びつき、足さばきも独特である。獅子頭から鹿の角が出、顔は隠されている。前には太鼓をつけ打ちながら舞う。そして唄もあり、歌詞が判らないのが残念である。動きは太鼓があるので拘束されるが、それでいながら勇壮でササラのしなやかさが加わり劇場でありながら風を感じさせる。

10月1日に、国立劇場で『伝統芸能の交流ー日本・モンゴルの歌と踊り』があり、その時、岩手県花巻市の春日流落合鹿踊がある。そして、一度聴きたいと思っているモンゴルのホーメィ(喉歌)もある。予定があり行けないのが残念である。

なかなか現地まで行って観たり聞いたり出来ない各地に伝わる芸能を、特に今回は東北六県に長く伝わる芸能に接する事ができ楽しい時間を過ごす事が出来た。震災の復興は遅遅としているが、こうした芸能を支える力が立ち上がりまた土台となって支えて行かれるのであろう。