映画 『こだまは呼んでいる』

旅のバスガイドさんから、『こだまは呼んでいる』の映画のことを書いて置きたくなった。

映画館<ラピュタ阿佐ヶ谷>で、4月から6月にかけて、<監督・本多猪四郎の陽だまり>を開催していた。~ゴジラの足もとの小さなドラマ~。誰が考えたのか。『ゴジラ』で有名な本多監督の系統の違う他の作品の紹介である。チラシの文を載せる。

<1954年『ゴジラ』で日本中に衝撃を与え、数々の傑作怪獣映画を生み出した監督・本多猪四郎。ダイナミックな特撮映画の傍らで、庶民の葛藤と良心を描いた素朴な人間ドラマを数多く手がけました。ヒューマニズムを映画に求めたゴジラの父ー。そのまなざしを辿る9作品をお楽しみください。>

『若い樹』『恋化粧』『おえんさん』『この二人に幸あれ』『花嫁三重奏』『東京の人さようなら』『こだまは呼んでいる』『鉄腕投手 稲尾物語』『上役・下役・ご同役』

そのうち1作品だけ見れたのである。

『こだまは呼んでいる』 脚本・棚田吾郎/撮影・芦田勇/音楽・斎藤一郎/出演・池部良、雪村いづみ、藤木悠、沢村貞子、千石規子、横山道代、飯田蝶子、左卜全、由利徹、若水ヤエ子、八波むと志

この出演者を見ただけで、歌謡音楽コメディー映画と思う。そこに池部良さんが入っているのが面白い。気楽に笑ってこようと思ったのが甘かった。軽いが、そこは本多監督、しっかり撮るところは撮っている。歌も、雪村さんが一曲歌うが、タイトルにも出てこないし、歌が先行していない。添えてある。そして、雪村さんのバスガールは、仕事に忠実な田舎のバスガールである。

このバスガールと組んでいる運転手が池部良さんである。怒りん坊の運転手で、雪村さんはよく注意されるが、明るく交わしている。映像からすると、甲府周辺で韮沢駅から宿木村までのバスである。出発前に買い物をする。それは、先々の停留所で渡されていく頼まれものである。買い物の宅配も兼ねているわけである。お弁当を届けたりもする。人気ものである雪村さん、そろそろこの仕事にやりがいを無くしている。そして、素封家の息子から結婚を申しこまれる。しかし、身分違いということで、結婚前の行儀見習いの条件つきである。雪村さんは、池部さんに相談する。本当は池部さんは好きなのであるが、雪村さんが成し遂げれると応援する。雪村さんは、やってみることにする。ところが、やはり務まらない。実家に帰っているとき、近くのお嫁さんが産気ずく。雨が酷くなりバスガールもいないので、危険だからバスは出せない。そこで、雪村さんに声がかかり、再び池部さんとのコンビが組まれるのである。

細い山間の道である、雪村さんはドアを開け、車輪がスリップしないように崖下と道路の幅を見つつ、オーライをかける。このあたりの撮りかたはリアルである。そうだ、かつてのバスガールさんは、こうした役割も引き受けていたのだ。対向車があれば、バックさせて、お互いが通れるように誘導する。バスの走る映像がかなり長い。そして無事目的地に到着させる。雪村さんは、何でもないと思って居た仕事に改めて充実感を味わう。そして、結婚を取りやめ、バスガールの仕事にもどるのである。相変わらず、運転手の池部さんは嬉しいのに怒りんぼである。

この単調な走行するバスの映像は、雪村さんと同じ気持ちにさせ、エンドで涙が出る。結構目頭を押さえている人が多く、皆さん裏切られた口であろう。

村祭りの場面、周囲の山々、そこで、穏やかに暮らす人々。喜劇的部分もあり、池部さんがあえて、喜劇として、目を真ん丸にしたりする場面もあり、わざとらしい下手さで笑ってしまう。

<ゴジラの足もとの小さなドラマ 監督・本多猪四郎の陽だまり> ピッタリのタイトルである。

7月、あちらこちらのテレビで、『ゴジラ』特集である。本多監督は、怪獣から逃げる人々をも粗末な扱い方はしなかったといわれている。怪獣映画にも、陽だまりはあるような気がする。