東北の旅・五所川原~青森~盛岡 (青森県立美術館)(6)

五所川原から青森で一つ残念だったことがある。岩木山の頂上にいつも雲がかかっていたことである。岩木山の全貌を楽しみにしていたのだが、ついに見ることができなかったのが、心残りである。

新青森駅の観光案内で、<青森県立美術館><三内丸山遺跡>の行き方と時間配分を検討してもらいう。以前、<棟方志功記念館>へ行ったとき、バスの本数が少なかったことが頭にあったので、青森の場合、多くの観光は無理ときめていた。<青森県立美術館>と<三内丸山遺跡>は隣接している。係りのかたが、青森駅に行き新青森駅にもどることなど、幾つか調べてくれた。新青森駅から歩いて30分位なのであるが、今回は歩きはパスし、結果的にタクシーで新青森駅にもどることとなった。

<青森県立美術館>は思い描いていた通り、広い自然空間の中に、白い幾何学的な建物が居座っている。入ってすぐに高倉健さんの映画上映会のお知らせのチラシを見つける。モノクロの渋いチラシである。展示物を観終ったあとで、ここで、横尾忠則さんのポスターがあって、高倉健さんの任侠映画が見られたらシュールでこの白い建物との対抗が面白かったのにと思ったりした。上映のなかに任侠映画は、入っていなかった。

最初の展示室が<マルク・シャガールによるバレエ「アレコ」の背景画>で、バレエ舞台の大きな背景画の綿布が三点展示されている。シャガールがアメリカに亡命していた時に手がけたものである。伝説的なロシアのバレエ団バレエ・リュスには、ピカソやマティスなども係っていたが、シャガールも、その流れをくむバレエの舞台美術や衣装に携わっていたのだ。今、国立新美術館で『魅惑のコスチューム:バレエ・リュス展』(6/18~9/1)を開催している。

<第一幕 月光のアレコとゼンフィラ>→青 <第二幕 カーニヴァル>→赤と黒 <第四幕 サンクトぺテルブルクの幻想>→左手の黄色のロシアの町  →の後は自分のメモで、色使いが印象に残ったのであろう。

次が、奈良美智さん。韓国で展示された「ニュー・ソウルハウス」という、作られた小さな開放された部屋の中の展示を見て移動するのが楽しかった。壁に囲まれた外には巨大な白い犬の作品がある。頭は青い空の光を受けている。「あおもり犬」。実物では感じなかったが、絵葉書の「あおもり犬」は随分悲しい表情である。光と影のコントラスであろうか。写真の枠に入った悲しさかもしれないと勝手に解釈する。

 

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奈良さんの作品はよくわからないのである。ただ今日、或る人にカチンときて、そうだ、この気分で、奈良さんのにらむ少女とにらみ合いたいと思った。そんな鑑賞の仕方もありかな。

次は、棟方志功展示室。志功さんも、故郷の青森ねぶたが大好きな方である。自らも、作品も、制作過程も、あの躍動感はお祭りのようであり、祈りがある。棟方志功記念館でのほうが、見る側の状況との連鎖反応からか、物凄い生命力が押し寄せてきた。今回は冷静に線や色などを楽しんだ。

最後は 「寺山修司×宇野亜喜良 ひとりぽっちのあなたに」の部屋。その時は<ひとりぽっちのあなた>の気分ではなかったので、このポスターは観た事がある、こんなポスターもあったのかと、宇野さんの細い線、ファンタジーでありながらそれを裏切る無機質な感じを楽しんだ。ポスター「毛皮のマリー フランクフルト公演版」の、映画『大いなる幻影』の捕虜収容所所長役のエリッヒ・フォン・ストロハイムが描かれているのが好きである。このポスターを初めて見た時、<あの収容所の所長だ。>とそのことだけ判ったので好きなのである。前衛とされるものの中に自分の知っているものがあると安心するものである。ただそれだけのことであるが。「毛皮のマリー」の脚本を読んだとき、毛皮のマリーの入浴しているそばに、<その傍らに、なつかしいエリッヒ・フォン・ストロハイム氏を思い出させるような下男がタオルを持って、ほぼ直立不動の姿勢で立っている。>とあったので、そのポスターの無機質性に立体感が加わったのである。ポスターハリス・カンパニー所蔵の物も沢山展示されていた。苦労して収集された物が生かされ、その仕事の意味が伝わる。パソコンを閉じて旅に出よう

インパクトの強い方々の作品が、なぜか、青森という土地の空気に飲み込まれて、大人しすぎた。晴れ渡った暑い日であった。それでいながら、冬になると別世界の自然に立ち向かうことが想像出来てしまう。冬の季節のなかで、この美術館を訪れたい。想像とは違う何かが見えるのかもしれない。

 

2014年7月11日 | 悠草庵の手習 (suocean.com)