新橋演舞場 『松竹新喜劇 爆笑七夕公演』

松竹新喜劇劇団創立65周年記念で新橋演舞場は、16年ぶりだそうである。昼の部、夜の部、別演目で、どちらにも65周年御礼の<ご挨拶>が入っている。チラシに出演予定の高田次郎さんと千草英子さんは、体調不良のため休演である。高田さんは、松竹新喜劇以外での芝居にも出られていて観ているので、残念である。松竹新喜劇の代表である、三代目渋谷天外さんの生の芝居は初めてである。歌舞伎界からは、坂東彌十郎さん、WAHAHA本舗の久本雅美さんらが参加している。観劇される方は、久本さん以外はテレビでお馴染みという役者さんたちではなく、今回初めて観る役者さんも多いであろう。

松竹新喜劇は曾我廼家十吾さん、二代目渋谷天外さん、藤山寛美さんが参加されて結成した関西系の劇団である。お三方の写真も紹介された。今回は藤山寛美さんの孫で、藤山直美さんの甥の、藤山扇治郎さんが松竹新喜劇の一員として加入されての舞台である。彌十郎さんの紹介にもあったが、扇治郎さんは、今の勘九郎さんが初めて歌舞伎座で『鏡獅子』を踊った時、胡蝶として、彌十郎さんの息子さんの新吾さんと一緒に踊られている。その時は、コロコロと太られていたが、今はすっきりとされている。癖のない素直な演技をする役者さんで、これから、諸先輩に教えられどのように伸びるか楽しみな役者さんである。小島慶四郎さんも何回か独特のおとぼけと間を楽しまさせてもらっている。

演目自体が、長く演じられてきたもので、『お祭り提灯』以外は、これまたお初である。『朗らかな噓』『裏町の友情』『船場の子守唄』

この劇団の出し物は、登場人物の関係は、登場人物が演技の中で語って行く。そのため、脇のかたも下手であると、間がもたなくなり、お客さまを寝かせてしまう事もあろう。そこを、演技者も心して掛からねばならない。近頃の喜劇は、そこを堪えきれなくてお客に振るのでつまらないのである。

秀逸だったのは『裏町の友情』である。渋谷天外さんと、曾我廼家寛太郎さんの科白術である。お互いに喧嘩で結ばれている二人のやりとりが、そのバトルと緩急の飽きさせない面白さは長年積み上げてこられたものである。そして、それが、自然に相手を思いやる気持ちになっていき、その気持ちが観客に伝わり涙になっても喜劇性は失わないで、もとの喧嘩の二人の位置にもどるのである。<会津磐梯山>のメロディーの効果もきいている。小島慶四郎さんが、<役者は長ければいいというものではありませんが>と言われたが、やはり鍛錬の長さは必要である。

『お祭り提灯』は、動きも加わり楽しく、お客さんも笑われていて満足されていたようであるが、台詞劇の喜劇も残っていって欲しいものである。若い人はスピード感を求めるであろうから、その辺を上手く組み合わせて伝えていって貰いたい。今回は、バランスの取れた演目の組み合わせである。彌十郎さんは、身体も大きく、歌舞伎界では、フットワークが抜群という方ではないが、やはり、身体の使い方の違いであろうか、一段と動きがよく映った。大坂の伝統喜劇として続いて貰いたい。

今回の舞台装置で、自分の中で、やはりそうかという事があった。それは、大阪の家の屋根である。大坂に <住まいのミュージアム 大阪くらしの今昔館> という、イベント館がある。これが、江戸と比較していたりして興味深かったのであるが、江戸時代の大阪の町並みを紹介しているところで、桂米朝さんの説明が流れるのである。その時、<江戸は瓦葺きとまさ葺きがありますが、大阪は全て瓦葺きです>と言われたのである。そのことが、頭の残っていて歌舞伎の『夏祭浪花鑑』の最後の立ち回りで屋根が出てきて、一部がまさ葺きである。「うーん」と考えてしまった。そちらの方では、<舞台装置の屋根屋根の一つに引き窓があるのもアクセントになっている。>と書いたが、瓦屋根でも引き窓はきちんとあったのである。松竹新喜劇のほうは、まさ葺きの屋根は一つもないのである。『夏祭浪花鑑』も瓦屋根で統一したほうが、すっきりするような気がする。

<大坂くらしの今昔館>は、なかなかお面白い。外人さんが多く、浴衣が200円で試着して、作られた町並みを見学出来るので、昔の大阪の町や路地裏で浴衣姿を写っている。大坂のお店の並ぶ道は真ん中が少し高いアーチ型になっていて、雨水が脇の下水にながれるようになっている。火の見櫓の半鐘も集会所の屋根の上にあり、『八百屋お七』の舞踊は成り立たないことになる。町内の夜回りの時の知らせは江戸は拍子木であるが、大坂は太鼓である。まな板も大坂は隅に四本脚がついているなどの違いがある。大坂も空襲で焼かれ、そのあと、バスを住まいとする一画もあった。その町に行かないと気にかけないことが色々ある。

大坂三昧はもう少し続くのである。