歌舞伎座 7月歌舞伎 『夏祭浪花鑑』 (2)

<長屋裏>。 団七は、舅・義平次が急がせる琴浦を乗せた駕籠に追いつく。義平次は、琴浦を、佐賀右衛門に渡し礼金を手に入れようとしている。団七は必死に、琴浦を連れて行かれては、男の顔をが立たないと、琴浦を戻してくれるよう頼む。義平次は、団七の顔が立とうが立つまいが知ったことではない。金の欲しかない義平次に、団七は困り果て、ふと石ころをつかむ。そして、ハッとして石ころを手ぬぐいに包み、懐に入れ、30両の金がここにあると伝える。義平次は団七の懐に触り、100両になるところだがそれで良いとして、駕籠を三婦のもとに返す。

団七はホッと息をつくが、お金が石ころと知った義平次は怒り心頭である。そもそも、団七は孤児だったのを義平次が育ててやったのである。ところが、娘のお梶と恋仲となり子供まで作ってしまう。義平次にしてみれば、娘を魚売りの団七などと娶わせる気はなく、もっとお金になる結婚をさせたかったのであろう。団七は、これからは親孝行に努めるからと説得する。団七はここで本当の男だてを成し遂げたいのである。二人の主張の食い違いが笑いを誘う。義平次に団七は眉間を割られる。義平次が、団七の刀を抜く。団七は親父さん危ないと言って刀を取り上げる。その時誤って、舅を傷つけてしまう。そこから、戻れない展開となっていくが、ここからが殺しの見せ場となる。様式美である。髪はざんばら、赤い褌に身体一面の色鮮やかな入墨。一度泥場に落ちた義平次がまた這い上がり死闘が続き、ついに団七は義平次の息を止める。この日は夏祭りの日で、祭り囃子が、殺しの場に合わせて鳴り響く。井戸の水をかぶり団七は震える手で刀を鞘に納め、放り上げた着物をふわりと着て、神輿の人並みに紛れて花道を去る。この場面は、音、色、形、練りつくされた場面である。

一つ今回感じたのは、最初から、義平次をあまり汚して欲しくないないと思った。泥場で泥だらけになるのであるから、そこで泥の効果を上げて欲しい。始めから汚れ過ぎで、泥の効果が目立たなかったのが、残念である。

<団七内>。親殺しは大罪である。そこで、徳兵衛と三婦は考え、徳兵衛がお梶に言いより、団七に去り状を書かさせ、お梶と別れさせるのである。そうなれば、ただの殺人である。捕り手がせまり、<同屋根上>となり、捕り手たちとの立ち回りとなる。舞台装置の屋根屋根の一つに引き窓があるのもアクセントになっている。三人の男だても美しい形では成就されず、舅殺しという結末になってしまった。

<住吉鳥居前>で役人(家橘)の言葉から団七が堺からところ払いとなったことを知った。そうかそういう裁きだったのか。ただ赦免されたと思っていた。三人の侠客とその女房もきちんと形作られていて、この芝居の巾が見えた。ここでも、若手、中堅、ベテランの演技力が充分にいかされた芝居になった。中車さんは芝居の上手い方であるが、まだ、小さく映る。夜叉王も義平次も親である。その貫禄は、身体からそのうち発散させる時がくるであろう。

海老蔵さんの、団七の声のトーンがよい。「おやっさん」とかの呼びかけの響きなども効果的で、節目の色を変える。世話物の柔らかさもある。

歌舞伎の役者さんというのは、自分の身体を作り変えていくものだと改めて感じた。自分が怪我をして、身体がバランスを崩し、意識せずに体重を乗せていたものが、どの位どこにかけたらよいかなど意識してしまうのである。役者さんは、この形の時には、こうしてと意識して身体を作り上げ、その鍛錬が、意識せずにできるところまで持っていくのであろう。さらにそこに心を入れていく。人間改造である。